ノートに視線を落としたまま、恵利子は何も言わなくなった。


「恵利子?」


不思議に思い友香が名前を呼ぶと、恵利子はノートを指差した。


「ここ」

「え?」

「ここ間違ってる」

「え、うそ!?」


指差された場所を、もう1度よく見てみると、
簡単なたし算の部分でミスをしていた。

消しゴムで慌てて消して、新しい答えを書きなおす。

そのあとでまた恵利子を見ると、また違う部分を指差して、

「ここも、間違ってる」

と指摘された。


「数学は苦手なんだもん。
恵利子はいいよね、数学得意なんだから…」


ため息を吐きながら恵利子に言って、友香ははっと気が付いた。


「ねぇ恵利子!」

「何?」

「私に数学教えてくれない?」


言った途端、恵利子の顔が歪んだ。


「なんで私が!」

「だって恵利子、数学得意でしょ?」


お願い!と顔の前で手を重ねて頼み込むと、恵利子は諦めたような顔をして頬杖をしなおした。