母は、いつものように、何も変わらず料理を作っていた。


トントン…

と、包丁の音が響く。

今日は、父は残業などではなかったはずだが、
この部屋にはどこにもいないようだった。


「ただいま、お父さんは?」

「あ、おかえり。お父さんならお風呂に入ってるわよ」


顔をお風呂があるほうに向けて母は言った。


お父さんが、いないほうがいいかも。


そう思った友香は、母のもとに近寄り、


「ねぇ、お母さん…」


抑揚のない、落ち着いた声で話し掛けた。

母は、料理の手は止めずに、「何?」と問い返す。


友香はもう1度深呼吸してから、きゅっと口元を結ぶ。


「今度の、テストのことなんだけど…」

「テスト?
それが、どうかしたの?」

「今度のテストで、もし、成績があがったら、

この前の話、なかったことにしてほしいの」