“諦めるな”


なんて言葉を、自分が使うとは思っていなかった。

普段、絶対に使わない単語を使って、それを友香にちゃんと伝えることができるのだろうか。

言ってみて、昇は急に不安になった。

友香に向けていた視線も、今では自分の足元に落ちている。


すると、立ったままでいた友香が一言も話さずにゆっくりと元のベンチへと腰おろした。

やはり、使い慣れない言葉は使うべきではなかったか。


「今の」


忘れていいよ、と言おうとしたら、それにかぶせるように友香が、


「ありがとう」


とつぶやいた。


伝わったんだ…


友香の一言で、昇は安心したように相づちをうった。

口には出さなかったが、昇も


“ありがとう”


と心のなかでつぶやいた。