殴られたのだと気付くまでに、かなり時間がかかった。

昇の体は玄関に倒れこみ、少し放心してしまった。

それを見て、男はずかずかと入ってこようとしたのだが、ちょうどそのとき、


「何してるんだ!」


という声が、後方から聞こえてきた。

それは父の声だった。

玄関先に倒れこんでいる昇を目にして、父はすぐに走って男の前に出た。


「遅れている金のことだろう」


そう言うと父は持っていたカバンのなかから茶封筒を取出し、男に押しつけた。


「遅れたことは悪かったが…
今日はこれで帰ってくれ!」


男は封筒のなかを確認してから、

「借金さえ返してくれれば、こっちは何も言わないんだけどさぁ」

と言って帰っていった。