それから、ケーキは相変わらず作らないが、父は仕事も見つけてきて、借金も少しずつだが返済していった。

このままいけば、以前のような暮らしが戻ってくると思っていた。


しかし、ある休みの日、あの男がまたやってきた。


ピンポーン、ピンポーン……

しつこいまでに鳴り続けるチャイムに、昇は文句を言おうと扉を開けてしまった。


「…何?
お金ならちゃんと返してるだろ」


屈することなく言うと、男はおもしろいものでも見るように、口元をにやりと歪ませた。


「威勢がいいねぇ、でも。
こっちも仕事なんでね。納期が過ぎた分払ってもらおうか」


男が無理矢理家のなかに入ってこようとしたので、昇は必死に抵抗した。

だが、次の瞬間、口のなかに鉄の味が広がった。