ケーキ屋は、本当に閉店してしまった。

ケーキが並んでいたガラスケースは空っぽになってしまい、ぴかぴかしていた店内も、埃っぽく暗い印象になってしまった。

その何もない店の前を通るたびに昇の心には影がさした。

近くにいたおばさんたちが、ひそひそとささやきあっていたのだ。

もっと分からないように話せばいいのに、その声は筒抜けだ。


「あのケーキ屋、いつか潰れると思ってたのよー」

「借金も抱えてるって聞いたわよ!」

「怖そうな男が出てくるのを見たって人がいたわ」

「怖いわねー」


聞いていて頭が痛くなる。

わざと分かるように近づいて睨んでやると、慌てたようにほかの話題を話し始める。

昇が少し離れると、

「ほら、ケーキ屋の息子さんよ!」

と小さなささやき声が後ろから聞こえてきた。