家に帰ると、珍しく母がもう帰宅していた。

「…ただいま」

「あー、おかえり昇」

母は疲れた顔をし、腰を叩いていた。

昇は母の後ろにまわり、肩も叩いてやる。

「ありがとう、楽になった」

母はそう言ってにこっと昇に笑いかける。

その顔を見ながら昇は言った。

「母さん、俺バイトしようと思うんだけど。今日チラシもらってきた」

そして、もらってきたチラシを母のほうに差し出す。

「でも、学校あるし、大変でしょ?
母さん頑張るから、昇はあんまりお金のことは気にしないでいいんだよ?」

「俺がしたいんだ。実はもう雇ってもらってきた。短期のバイトだし」

そう言うと、母は少し悲しそうな顔をした。

「何か欲しいものでもあるの?
…ごめんね、好きなことさせてあげられなくて」

こんな顔を母にさせるためにバイトをすると言ったわけではなかったのに、
と昇は思ったが黙って聞いていた。

ただ母の負担を少し減らしたかっただけなのだ。

だが、そう言うときっとバイトは反対されるだろう。


「…欲しいものは自分で買うから母さんは気にしなくていいよ」

力なく笑った顔を母に向け、昇は自室へと向かった。