「だって知ってたから」

「は?」


母はにっこりと笑って言った。


「お父さんと出会ったのはね、私がバイトしてたケーキ屋さんだったのよ」


昔を懐かしむような口振りの母は、なんだか優しい顔つきだった。


「…話が読めないんだけど」


それ以上はにこにことするだけで、何も言わない母。

父のほうに体を向け直すと、父は顔を少しだけ赤く染めた。


「父さん、何で仕事辞めるんだよ」


「あのな、昇。
実はケーキ屋になるのが、昔からの父さんの夢だったんだよ」


照れながら、父は母と視線を交わした。


「ケーキ屋で出会ったときに、夢のことを教えてくれたのよ」


今度は母がさっきの続きを言う。


「昇、応援してくれるか」


父が真顔になって問い掛けてきた。

本気が伝わってくる分、“駄目”だとは言えない。

それに、小さい頃からケーキ作りをがんばっている父の姿を見てきた。


「分かった、応援するよ」