そんな父には、少し変わった趣味がある。

会社が休みの日には、父は買い物にでかけて小麦粉や牛乳などを大量に買ってきた。

そして、母の城である台所を占領して、何やら始めるのだ。

カシャカシャと金属が触れる音や、甘い香りが台所にたちこめる。

中でどんなことをしているのか、好奇心にかられて何度かのぞきにいったことがある。

しかし、いつも母に止められていた。

「お父さんの邪魔になるでしょ!」

と。


台所から音が消えると決まって、父はもったいぶって持って出てくるのだ。

甘い甘い香りのケーキを。

そのときの父の顔はとても嬉しそうで、その父の顔を見る母の顔も笑顔であふれていた。

2人の笑顔は、自然と昇にも笑顔を与える。