キッチンに入ると、母はフローリングに掃除機を走らせていた。

友香が起きてきたことに気付かぬまま掃除を続けていたので、友香は声をかけずに通り過ぎた。

冷凍室から、氷を取り出して、ビニール袋に詰めて、タオルでそれをくるむ。

腫れた目を冷やすようにして顔を上に向けた。

そうしていると気持ち良かったので、

「気持ちい…」

とその場にたたずんでいると、掃除を終えた母が友香の存在に気付く。


「あら友香、起きたの」

「…うん」


なんとなく母の顔を見ることができなくて、不自然に顔をそむける。


「朝ごはん、作っておいたから、食べなさい」


母は、昨夜、何もなかったかのように友香に話し掛ける。

友香は訝しげに母を盗み見て、顔をしかめた。


「…わかった」


目にあてた氷をテーブルの上に無造作に置き、椅子に腰掛ける。

まるで、何もなかったみたいにいつもどうりの朝に、友香はなんだか居心地が悪かった。