病院の前には、車が何台か止まっていて、病気にしろ、怪我にしろ、
今ここにそれだけの人たちがいると思うと複雑な気持ちになる。


母が運ばれた日にも思ったが、病院のつんと鼻をさすようなこの臭いは、何度来ても慣れるものではない。

受け付けのところで、まだ母がいることを確認してから、前にも行った部屋へと足を運ぶ。


静かに部屋の扉を開けると、母が自分の荷物を片付けているところだった。


「あら、昇?来てくれたの?」


「暇だったから」

荷物を詰めおわった母が、優しい笑顔を浮かべ、立ち止まったままの昇のそばまで歩み寄る。


「文化祭はどうだった?」

こんなときまで、自分の体のことよりも、昇のことを気に掛ける母。


どうしてだろう。

もっと自分のことを気に掛ければいいのに。


昇はそう思ったが、口には出さずにさっきの問いに答える。


「楽しかったよ」


そう言うと、母はまた笑って、

「そぅ」

とまた嬉しそうに言った。