ボクはゆっくり顔を上げた。
そして、ひとみさんに向け精一杯の笑顔を作って見せた。
「ボクのほうこそ、ありがとうございました。なんか、言いたいこと、たくさんあったんですが、上手く言えないや。とにかく、父のこと、よろしくお願いします」
これ以上の言葉を、ボクは探し出せなかった。
ボクの大好きな、ひとみさんの丸い瞳は、涙を止めることができない様子だった。
心の奥から、彼女を思いっきり抱きしめたいという欲望が込み上げてくる。
ボクの手は我慢に震えていた。
ボクは心の欲求を抑え込み、笑顔を保って見せた。
「ボクなんかが言うようなことじゃないかもしれないけど、幸せになってください。こちらこそ、色々な思い出、ありがとうございました」
もう、これ以上は口を開くのも難しく感じた。
ボクの感情が噴出してしまう前に、彼女の前から姿を消したくなった。
「そんな………初めて見た」
ひとみさんは、なにか呟いた。
涙声で途中が聞こえなかった。
そして、彼女は再び口を開いた。
懸命に震える声を絞り出していた。
「そんな、駿平君の、悲しい笑顔、初めて見た、ごめんね、駿平君」
彼女はボクの胸にすがりついた。
「私、最低だよね、駿平君に、そんな、悲しい、笑顔を、させる、なんて」
彼女の声は次第に嗚咽に変わっていった。
「ひとみさん。気にしすぎですよ。ボクのことなんてなにも気にしなくていいから、自分のことだけ考えてりゃいいんですよ」
この言葉がボクに出来る、せめての強がりだった。


