ひとみ




映画や小説の中でしか体験したことなかった、失恋というものは、実際にはこんなにツラいものだとは知らなかった。
なんだか、自分で何をどうやっていいのかさっぱりわからない。
どうしようもない喪失感ばかりが纏わりつく気がする。
時間が解決してくれるのか、それとも新しい恋をすれば忘れていくものなのか。
新しい恋なんて今のボクにはできそうにないよ。
それに、このツラさを帯びたまま生きていく術をボクは知らない。
だって、ボクは過去にそんな経験したことないのだから。


ドアをノックする音が聞こえた。
ボクはベッドから立ち上がりドアを開いた。

「駿平君、ちょっといいかな」

そこには、不器用な笑みを浮かべたひとみさんが立っていた。
ボクはコクリと頷き、彼女を部屋へ通した。

「あ、あの、ごめんね、駿平君」

視線を足元に落としたままひとみさんは呟いた。

「急に、また、向こうに戻ることになっちゃって」

彼女の声は少し震えていた。
ボクはひとみさんの顔を見ることが出来なかった。
なにを言っていいのかもわからなかった。

「ホント、ありがとうね。ここでの駿平君との暮らし、すごく楽しかったから」

そこで、ひとみさんの言葉は途切れた。
次の瞬間、彼女の足元に水滴が落ちていくのが見えた。
ひとつ、またひとつ、その水滴は彼女の足元に落ちてくる。
そして、音もなく絨毯に染み込んでいく。
ボクは広がり続ける涙の染みを見るのがツラくなった。