「お~い、駿平。下りてこいよ」

階下で父がボクを呼んだ。
色々考えることもあるが、ボクは父のもとへ向かった。

「酒でも少し付き合え。お前ももう大人だから構わんだろ」

そう言った父の手には缶ビールが2本あった。

「なぁ、駿平。お前、ひとみとなんかあったのか?」

プルタブを開けながら、父はボクに尋ねる。

「なんかって、なにが?」

「そりぁ、お前、男と女が一緒に半年以上も暮らしてるわけだから、まぁ、その、そういう関係があったのか、ってこと訊いてるわけだが」

ボクは父の問いに首を横に振った。

「なら、いいよな?ひとみを連れて帰っても」

ボクを真っ直ぐ見つめながら、父はそう言った。

「でも、それって、ひとみさんの意志は関係ないの?」

ボクは父に訊き返した。

「ほぅ、なんだ、駿平、お前ひとみに惚れてんのか?」

「な、なんでそういう話になるんだよ!」

核心を突かれたボクは慌てて言い返す。

「さすが、俺の息子だな。惚れる女も同じときたか」

父はそう言って笑った。

「だがな、駿平、悪いが、いくら親子でも譲れないものもあるわけだ。それに、俺は父親としちゃ、20年程度だか、男としちゃ、40年以上の歴史があるんでな」

父はグビリとビールを飲み干した。

「でも、ひとみさんは、もう、父さんとは終わったって、言ってた」

父はボクの言葉に片目を瞑った。

「まぁ、色々あったが、俺としちゃあ、終わったとも思っちゃいねぇさ。だいいち、そんな別れた男の家にいつまでも厄介になるなんておかしいだろ?口じゃそう言ってるが、実際はそうじゃないんだよ。確かに、色々諍いがあって、距離をおいたのは事実だかな」

父は自信に満ちた口調で、ボクにそう言い放った。