「ただいま」

バイトから帰ってきたボクは、灯りの点いた玄関に入った。
帰ってきた時に誰かが家にいる温かさは、なんか嬉しいものである。
そんな事を考えながら靴を脱いでいると、ふとした違和感に気付いた。

玄関に男物の革靴がある?

その事に気付いたとたん、居間の方から懐かしい声が聞こえた。

「おぉ、駿平、帰ってきたか」

声に続き姿を見せたのは、父であった。

「と、父さん。ずいぶん急に帰ってきたね。なんだよ、連絡くれればいいのに、驚いたよ」

非難がましい言葉だがボクは内心喜んでいた。
母のこともあったし、一度ゆっくり話をしたかったんだ。

「すまん、駿平。突然、時間ができたんでな。まぁ、サプライズのひとつとでも思ってくれ」

そう言って父は笑顔を見せた。

「それにしても、駿平、お前ずいぶん大人っぽくなったなぁ」

父はボクをまじまじと見つめながら言った。

「そりゃ、1年半ぶりだからね。ボクだって、もうハタチだからさ」

ボクの言葉に父は笑顔を向けた。

「まぁ、親は無くとも子は育つ、とはよく言ったもんだなぁ」

「そうそう、父さん、いつまで日本にいられるの?お正月くらい?」

ボクの問いに父は苦笑いを浮かべた。

「駿平、さっき言った通り、ちょっと時間が出来ただけだから、明後日には日本を発つよ」

父の言葉にボクは少しがっかりした。

「なんだぁ、つまんないなぁ」

「駿平、まぁ、そう言うな。今度また、ゆっくり時間を作って帰ってくるから」

そう言って、父は一度言葉を切った。
そして、一瞬考えるような表情を作り再び口を開いた。

「それに今回は、ひとみを連れ戻しに来ただけだから」