ボクはとりあえず、温泉に入ることにした。
ひとみさんは、はしゃいでいたが、ボクは色々心に引っかかることがあって、なんとなく気が乗らない。

イカンイカン、せっかくの温泉なんだからしっかりと満喫しなきゃ。
ボクはプルプルと頭を振って、温泉に入った。

ちょうど、男湯には誰もいないようで貸し切り状態だった。
湯船に浸かりながら長距離運転で疲れた四肢を伸ばす。
思わず、フウっと声が漏れてしまう。
我ながら爺むさいと、ひとり苦笑いしてしまった。
疲れが、きれいに体内から抜けていくのがわかる。
やっぱり、温泉はいいものだ。
広い浴室の中に、『露天風呂入り口』と書かれた扉があるのに気付いた。
ボクはその扉を、ソッと開けてみた。
そこには部屋から見たのと同じ、眼下に広がる夜の海と、満天に輝く星の空が広がっていた。

ボクは露天風呂にソッと浸かった。
微かに海から波が打ち寄せる音が聞こえる。
ボクはその音に耳を傾けながら空を見上げる。
視界いっぱいに夜空を埋め尽くすような星々が広がる。
なんか、上手く言えないけど、すごく嬉しいような気分になった。

なんか、色々あったなぁ、今日。
嘘か本気かわからないけと、『恋人になる?』なんて、ひとみさんに言われたし。
それで、意識しちゃったのか、浜辺で遊ぶ彼女がすごく眩しく見えてしまって。
それに、さっきの父の話で、あんなにも苦しくなってしまったり。

まぁ、いいか。
今、結論出さなきゃならないことでもないし、もう一度、冷静に客観的に考えてみてからでも遅くないよなぁ。

空を見上げながら、そんなことを考えていると、なんとなく背後に人の気配を感じた。

誰か、他のお客さんが入ってきたのかな?

「駿平君」

ボクの耳にいつもの聞き覚えのある声が聞こえた。