部屋に案内され、ボクらはその部屋から見える景色に感嘆した。
眼下には夜の黒く光る海が広がり、その上空なは無数の輝く星々が瞬いている。
水平線と空の境目に数多の光が幽かに揺れている。

「朝の景色も、とても綺麗で御座いますよ。それでは、ごゆっくり」

女将さんは、そう言い残して、部屋を出ていった。

「ねぇねぇ、駿平君」

ニヤニヤと不適な笑みを浮かべ、ひとみさんがにじり寄ってきた。

「あの女将さん、絶対、公平ちゃんと男女の関係だったわね。まったく、公平ちゃんて、あっちこっちとまぁ、手広いわねぇ」

「ひとみさん、そんなこと、女将さんに言っちゃダメですよ」

ボクは、ひとこと、彼女に釘を刺した。

「わかってるわよ、そんなこと、駿平君に言われなくても。だって私だって、公平ちゃんと関係あった女だしね」

そう言いながら、ひとみさんは夜に染まる海に目をやった。
そして、くわえたタバコに火を点ける。

「その点は、駿平君は、身持ちが堅いというか、度胸がないというか」

彼女は煙を吐き出しながら呟いた。

「それって、悪いことですか?ひとみさんに、からかわれなければならないような事なんですか?」

少し、彼女の言葉に腹が立ったので、ボクはそう言い返した。

「ごめんねぇ、駿平君。別にからかって言ったつもりじゃなかったんだけどね」

彼女は海を見つめたまま、そう言ってタバコをもみ消した。

「ちょっとだけ、公平ちゃんのこと、思い出しちゃったからさ。それより、お風呂入ろうよ、駿平君」

胸の中に、自分でもよく理解できない感情が渦巻く。
彼女の口から、父の名を聞いただけなのに。