ボクは、ひとみさんの言葉になんと言っていいのかわからなかった。
だから、なにも答えず黙っていた。
いったい、彼女はどういうつもりであんな事言ったんだろう。

少し、ギクシャクとした空気を残したまま、ボクらの車は目的地の弓ヶ浜に到着した。
海から吹き抜ける風に、ひとみさんの髪は弄ばれていた。
でも、彼女は楽しそうな柔和笑みを浮かべている。

こんな、優しい顔するんだなぁ………

ボクは気がつくと、ひとみさんに見とれてしまっていた。
まだ、夏の残りの眩しい日差しが、青色の海に眩く反射する。
その海面を、滑るように吹き付ける風が、ボクたちの体を駆け抜ける。
微かに漂う、潮の香りが胸に満ちた。
彼女は波打ち際まで、歩みを進めた。
サンダルを脱いで、そのまま海に踏み込んだ。

「ねぇ、駿平君もおいでよ!」

満面の笑みで、ひとみさんはボクを振り返った。
その笑顔にボクは反射的にデジカメを彼女に向けた。

「写真撮るの?じゃあ、キレイに撮ってよ!」

ボクの向けたレンズに、彼女は笑みを浮かべた。
眩しく輝く海をバックに、美しい笑みを浮かべる彼女は、ボクの胸に乾きにも似た熱さを込み上げさせた。