「あぁ、それならこの先にある『望洋館』がいいんじゃないかな?空きがあるか聞いてみようか?」

ひとみさんの問いに、店主はニコニコしながら答えて、さっそく『望洋館』に電話をかけていた。

「お客さん、お一人様1泊12000円で夕食、朝食付きだってさ。どうする?」

店主の問いに、ひとみさんは間髪入れず、お願いします、と答えていた。
全くボクに同意を求めないのは、やはり彼女らしいが。

ボクらは気さくな店主に礼を言って、再びドライブを開始した。

「ねぇねぇ、駿平君、混浴露天風呂とかあったら一緒に入る?」

タバコをプカプカふかしながら、彼女は言った。

「遠慮しておきます」

そう答えたボクに、ひとみさんは吹き出した。

「相変わらず堅いのね、駿平君。今時の若いコにしちゃ珍しいタイプかもね」

そう言って、彼女は再びタバコを口にくわえた。

「堅いとか、そういう問題でもないでしょ。ボクら、その、なんて言うか、あの、ほら、恋人とかってわけじゃないですし」

しどろもどろになったボクを見て、ひとみさんはクスクスと笑った。

「かわいい、駿平君。ならさぁ、今から恋人になっちゃう?」

また、彼女のからかいモードにスイッチが入ったらしい。

「ひとみさん、冗談はやめてくださいよ。だいいち、アナタは父の」

そこまで言った時、ひとみさんは、強い口調でボクの言葉を遮った。

「駿平君!冗談なんかじゃないわよ。それに、私、もう公平ちゃんとは、もう終わったんだから」