東名高速を厚木インターで降り、そのまま小田原厚木道路、西湘バイパス、湯河原有料道路、熱海ビーチラインと経由してボクの運転する車は、伊豆半島の付け根にやっとこさ到着した。
だが、ボクらの目指す南伊豆までは、海岸沿いの国道を80キロ近く走らなければ到着しない。

「ずいぶんと遠いのねぇ。駿平君、運転疲れてない?」

左手に熱海の海を見ながらひとみさんはボクに訊いた。

「さすがに、これから向こうまで行って、同じ距離をまた帰らなきゃならないと考えると、正直気が滅入りそうです」

ボクは素直に思ったことを口にした。
ひとみさんは、ボクの言葉に、しばらく考え込んで再び口を開いた。

「それならさぁ、温泉宿にでも泊まろうか?温泉に入いれるし、疲れもとれるでしょ?」

確かにその提案は魅力的である。

「それ、すごくいいですね。でも、ひとみさん、ボク、お金そんなに持ってないから」

ボクの言葉に彼女はニヤリと笑みを浮かべた。

「大丈夫。実は私、公平ちゃんから、家政婦としてのお給料をキチンともらっているから。意外とリッチだったりするのよねぇ~」

あぁ、そうだった。
この人、家政婦兼保護者なんだ。
料理なんか全然しないから、ただの居候のように思っていた。

晴れ渡る空を見ながら、ボクはそっとため息をついた。
助手席に座る彼女は、鼻歌混じりに外の景色を上機嫌に眺めている。

でも、まぁ、いっか。

ボクは、なんとなくだけど、ひとみさんとの今の生活を楽しめるようになった気がしている。
もちろん最初は他人に自分の生活を干渉されることがイヤで仕方なかったけど。
不思議なものだ、今ではボクの生活の中に彼女がいることが、自然に思えるのだから。