「ったく、あのオヤジ、肝心なこと伝えてなかったのね」

彼女は舌打ちをして、タバコを玄関に投げ捨てた。
そして、携帯を取り出しどこかへ電話をかけ始めた。

「あっ、もしもしぃ~、公平ちゃん?あのさぁ、公平ちゃん、駿平君に私のこと話してなかったでしょう」

えっ、公平ちゃん?
それって、もしかして

彼女は電話に向かい一言二言文句を言って、携帯をボクに手渡した。

「もしもし……」

なんか、イヤな予感がする。

『おう、駿平か?』

やっぱり……

「父さん?なんなんだよ、この女のひと?」

ボクの発した『この女のひと?』という言葉に、彼女は鋭い視線を向けた。

こ、こわいよぅ……

『あぁ、駿平、わるいわるい。連絡するの忘れてた』

電話の向こうの父はさして悪いとも思っていない様子で謝りの言葉を口にした。

『えぇとなぁ、彼女は楠木ひとみといってな、父さんの会社で働いていた人なんだよ。ただ、彼女、急に日本に帰りたいって言い出してな。だけど、彼女日本に身寄りがないんだよ。それで、まぁ、こっちで彼女には色々世話になったし、その義理でお前の保護者兼家政婦として、うちに住み込みで働いてもらおうと思ってな』

な、なんだよ、それ。
当事者のボクは蚊帳の外じゃいか!