「それで、かなり強引だったけど、私、公平ちゃんについて行ったの。それが13年前のこと。ちょうど駿平君が小学校に入る頃かしらね」
そう言って、ひとみさんはボクを見つめた。
「ごめんね、駿平君。本当はキミがお父さんに甘えたい頃だったのにね。その頃、私が公平ちゃんに甘えちゃってたから」
彼女の瞳は伏せられていた。
「ひとみさんのせいじゃないから、ひとみさんが謝ることじゃないよ。ボクを残して渡航を決めたのは、父なんだから」
色々な幼い頃の記憶が頭の中を駆け巡り、そのくらいのことしか、ボクは喋れなかった。
彼女は柔らかい微笑みを浮かべた。
「ホント、優しいのね、駿平君て。ありがとう」
そう言ったまま彼女は口を閉ざした。
そんなひとみさんに、ボクも微笑みを返した。
そして、ゆっくり目を閉じた。
薬のせいだろうか、睡魔がボクの体を支配し始めた。
誰が悪いわけでもないだろう。
父だって、ボクの為に働いていたんだ。
そりゃあ、遊びたい盛りにひとり残されたことは寂しかったけど。
当時は恨み言を言った記憶もあるけど、今はその頃のようなわだかまりはないし。
寧ろ、父やひとみさんの生い立ちを知って、まだボクは恵まれているとも感じた。


