ひとみ



「でもね、駿平君、私ね施設で育ったことに、ひとつだけ感謝していることもあるのよ」

ひとみさんは、明るい口調でそう言った。

「駿平君、アナタのお父さん、公平ちゃんとはそこで知り合ったの」

「えっ?父と?」

驚いて聞き返したボクに彼女は頷いた。

「公平ちゃん、駿平君に話してないのかな。彼もね、私と同じ教会の施設でそだったの。まぁ、私より12歳も年上だから、私が7歳の時に高校卒業して世の中に出て行ったけどね」

彼女の言葉は衝撃的だった。
ボクは父のことをなにも知らない。

「公平ちゃんね、幼い頃、事故で両親を亡くされたんだって。引き取ってくれる親戚もいなくて、施設に入ったんだって。そこに19歳までいたのよ、彼」

ひとみさんは懐かしそうに話を続けた。

「中学卒業と同時に出て行くつもりだったらしいけど、神父さんが優しい人でね、高校までいかせてくれたんだって。公平ちゃん、それにすごく感謝したんだって。彼ね、高校は定時制にして、昼間は輸入雑貨店でアルバイトしてたの。断る神父さんを説き伏せて、強引にお給料の殆どを寄付していたんだって。今でも彼、その教会に寄付を続けているし、律儀な性格よね」

ボクはひとみさんの言葉に、なにも話すことが出来なかった。

「私の初恋だったの。公平ちゃんは。彼にしてみたら歳の離れた妹みたいなものだったのかもしれないけど。だから彼が結婚したって聞いた時は、ホント落ち込んだ。その後、離婚したって聞いて言い方悪いけど、私、喜んでた、私にもチャンスあるかもって。私が高校を卒業する頃、彼、ちょうどロスに仕事の拠点を移す時でね。だから思い切って彼に頼んだの、『私もアメリカに連れて行って』ってね」

ボクは正直、混乱していた。
ただでさえ、熱があるのに。