「いちいち、うるさいわねぇ。別にいいじゃない多少違ってても。理屈っぽい人ねぇ。そんなんじゃ女の子にモテないわよ!」

あ、あの、ボクは間違いを指摘しただけなんですが、何故、そこまで言われなきゃいけないんですか?
正直、これ以上話などしたくないから、ボクは黙ったまま、図書館への歩みを速めた。

「ねぇ、待ってよ。なに怒ってんのよ!」

後ろからひとみさんの声が聞こえた。

「まったく、さっきのことでむくれてんの?ホントお子ちゃまなんだから、駿平君は」

ボクの隣に駆け寄って彼女はそう言った。
ボクはため息をひとつついた。

「もう、いいですから。それより、図書館着きましたから、中では騒がないでくださいよ」

「わかってるわよ、そんなことぐらい」

ひとみさんは心外そうな表情で言った。

「ひとみさん、『源氏物語』でも読んでみたらいかがですか?」

ちょっとしたあてつけに、ボクは彼女に言ってやった。

「ホント、失礼な人ね。『源氏物語』くらい読んだことあるって言ったじゃない。美男子の主人公が浮気しまくって最後に自分好みの女を育てるためにって小さい子供にまで手を出す、節操のない話でしょ?今の世の中なら放送倫理コードに引っ掛かるわね、絶対」

ひとみさんは、ボクの言葉にそう答えた。

ある意味正解な気がして、ボクは思わず吹き出してしまった。
そんなボクを見て彼女は笑いながら言った。

「ウブな駿平君を私好みの男に仕上げるってのもありねぇ。色々教え込んでさ」

その言葉と同時にボクの背筋に悪寒が走った。