張り詰めた空気の中で、ボクの額から1粒の汗が床に落ちた。
その小さな音を合図にしたように、止まっていた時間は再び動き始めた。
冷蔵庫の下から素早くヤツが躍り出た。

デ、デカい!

5㎝はありそうな黒光りする体を見せつけるように、ヤツはボクに向かい突進してきた。
一瞬、その姿にボクは怯みかけたが、意を決し、振り上げていた新聞紙の棒をヤツめがけて振り下ろした。
鈍い音が床に響いた。

やったか?

ボクは確認のため、新聞紙を床から離した。
だがその刹那、突如黒い物体がボクの顔をめがけて飛んできた。

なにっ、打ち損じたのか?

黒光りする弾丸は強烈な羽音をたてながらボクの顔に向かってくる。
ボクは思いっきり上半身を反らした。
あたかも、某映画でキアヌ某が魅せたあのアクションのような体勢である。
ヤツは、ボクの顔のギリギリをかすめるように通過していった。

その直後、背後から耳をつんざくような悲鳴があがった。
ボクはその悲鳴にひとみさんを振り返った。
彼女の瞳は虚ろに宙を見つめていた。
彼女の豊かな胸の上に、黒いシミのようなものが確認できた。
まるで、銃で撃たれたような黒いシミが………

彼女は膝から崩れ落ちるように床の上にへたり込んだ。
完全に体中が弛緩しきっているようだ。

「ひとみさん、大丈夫っ!?」

ボクは彼女へ手を伸ばし、床に頭から倒れ込みそうになっている彼女の体を支えた。