「冷蔵庫の辺ですか。潜られたらヤバいな」

ボクが呟いた言葉に、ひとみさんがビクリと体を硬直させたのが伝わった。

「お、お願い、本当にダメなの………コワいの………」

震える彼女の声は心底ボクにすがっている。

「わかりました、やっつけてやります」

そう言ってボクは近くにあった新聞紙を丸めてたたき棒を作った。
そして彼女から離れ、忍び足で冷蔵庫の前に向かう。
冷蔵庫の周辺や壁に目を配る。
気配はなにも感じられない。

どこにいやがる………

意識を集中して更にヤツを探す。

あっ………冷蔵庫の下から黒い糸のようなものが出ている!
そいつは意志を持つように左右に動いていやがる。
間違いない、触角だ。

ボクはもう一歩静かに冷蔵庫の前に近づいた。
そしてひとみさんを振り返り、ここにいると、目で合図を送った。
彼女のまん丸なネコに似た瞳はすがるようにボクを見つめ返した。
ボクは新聞紙を振り上げ、ヤツが出てくるのを待った。

台所が静寂に包まれる。
ボクは冷蔵庫の下から出ているヤツの触角を見据え続け、ヤツとの対決に備えた。

ボクの背後ではひとみさんが息を飲んで見守っている。
彼女は胸の前で祈るように手を握り締めている。

緊張感が張り詰めている。
ボクはヤツを見据え集中する。