「でも、同じ銘柄の新米が今年はどうもこのふたりの口に合わなかったみたいで、別のお米を使ってるんです」
「ああ、やっぱり。なんだかいつもよりちょっと歯ごたえがあるなって」
「それにしつこくないでしょ。冬の煮物によく合うんですよ、ね、ゴンさん」
「ああ」
無骨な返事が聞こえたところで、カウンターの角で電話を受けていた三人目の料理人が佐希子さんを呼んだ。首を伸ばす彼女に耳打ちする。
「ご予約の三名様が間もなくだそうです」
「はい、わかりました。――じゃあごゆっくり」
「はりはほうほはいます」
箸を咥えたまま礼を言う佳織に軽く頭を垂れると、佐希子さんは厨房へと消えた。
盛り付けや簡単な調理はカウンターの中で済ませるけれど、揚げ物や、フライパンを振り回すといった大掛かりな作業は厨房で、と決められているらしく、根岸くんや電話番の丹後さんは普段はそちらにいることが多かった。

