「いかがですか? おいしいでしょう――って、わたしが言うのもおこがましいか」
お茶を持ってきた先ほどの女性、名前を佐希子さんと言うらしい――が湯飲み茶碗を佳織の前に置きながらにこりと笑う。
街灯の下でもそうだったが、明るいところで見るとまた一段と華やかさが増す。
こんなに美人だったんだ、と枡屋であらためて顔を見合わせて、ちょっと気後れしたほどだ。
着ている物も装飾品も地味なのに……と思うけど、それがかえってしっとりしたおとなの色気を漂わせている気がする。
「いえ、ほんと、とっても美味しいです。何杯でもご飯食べられちゃう。てか、このお米、ちょっと変わりました?」
訊ねると、なにやら含みのある顔で板長のゴンさんと佐希子さんが互いの目を見交わした。
「新米なんですよ」
横からさくっと種明かしをしたのは、ゴンさんを入れて三人いる板前さんのうちで一番若そうな根岸くん。
彼が移動するときだけかっこかっこと妙な音がするのは、彼が素足に下駄を愛用しているためだ。

