「――大丈夫、みたいっすね」

「うん、ありがとう。ごめんなさいね手伝ってもらっちゃって」

「いえ。てか、新しい脚立買ったらどうっすか? これめっちゃかくかくじゃないですか」


 根岸くんは年季の入った踏み台を声に合わせて揺らす。


「そうなんだけど、こんなときでもなければ大して使うときもないし、職人のお客さんに頼んで高さを調節してもらえばまだ大丈夫じゃない?」

「脚立自体がもう古いじゃないですか。乗った拍子に一気に壊れて、大怪我してからじゃ遅いんですよ」

「そうねぇ。――じゃあ思い切って買い換えようかな。チョコレート我慢して」

「それがいいっすよ。――って、あれ。なんすかこの手……」


 佐希子はにこっと口角を持ち上げながら、


「ちょうどお店のトイレットペーパーも切れてたの。今日お買い得みたいだから一緒に行きましょう」

「え、いやだって俺まだ仕込みの途中……」

「ゴンさんには火急の用ってわたしの方から言っておくから。早く着替えてきて」


 言い出したら聞かないことを、彼はすでにその身を以って知っている。

 こんなはずじゃなかったと言わんばかりに肩を落とし、それでも、わかりましたよ、と従順に店に戻っていく背中を軽く叩くと、佐希子は自らも仕度をするべく寝室に向かった。