メインは和食のようだが創作物もけっこうあって、その中でも常連さんにだけ勧めてくれる裏メニューの洋物が佳織はとくにお気に入りだった。

 必死に弁解する佳織を、いいんですよ、と優しくなだめると、


「そう言ってもらえるとゴンさんも本望だと思います。いかがですか、今日はたしかブリ大根ですよ。あと、ふわふわのあんかけしんじょう」


 ごくり、と佳織の喉が鳴った。

 枡屋に通いだして三年。照り照りのブリ大根は昨冬にはじめて見えたが、あまりの旨さに、他の店のブリ大根が食べられなくなってしまったほどだ。

 佳織はとうとう辛抱たまらず、お願いします、とすなおに頭を下げた。

 路地を回りながら、佳織は恐々と財布の中身をあらためる。

 今日はあまり持ち合わせがなかったから遠慮したのだけれど、このまま帰ってもろくなものがない。スナック菓子と缶チューハイでは今の気分は埋まらない。


 なんでもいい、別のことで頭をいっぱいにさせてくれる何かが欲しい。


(足りなかったらこいつを人質に、コンビニ行って下ろすだけよ)


 と佳織は依然として沈黙を貫いたままの携帯電話をひとしきり睨めつけた。