初対面なはずなのに。それともどこかで会っていたのだろうか。

 思えば彼女が声をかけてきたとき、妙に親しげだったのが気にかかる。それに、”みんな”って……? 

 困惑する佳織に、その人は鷹揚に微笑み返すと、


「よければ今日も寄って行かれませんか。枡屋は今日も営業中ですよ」


 え、ええ? と佳織は驚愕をあらわに、思わず先の路地までいって、暗がりの奥に見える見慣れた景色に唖然とした。


「ここって、もしかして枡屋さんの真裏? なんですか……」

「ええ、そうですよ。ついでに言うと見えないところで廊下が続きになっていて、行き来ができるんです。だからわたしもときどきお運びをしていたんですが……気づいてもらえなかったみたい」

「ごっ、ごめんなさい! わ、わたしあの店に行くとつい食べるのに夢中になっちゃって、他のものに目が行かなくなっちゃうんです」


 誰か連れがいるのも厭わしいと思うほど、仕事が切羽詰っていないときはひとりでも通い詰めてしまうほど、気に入っている料理屋さんだ。

 こじんまりとしていて、いくつかの座敷席がある以外はカウンターが基本。

 最初はちょっと入るのに勇気が要ったが、値段も手頃でその割りに客層に品があって、女子の一人メシでも全然窮屈に感じない。