おいしい時間 しあわせのカタチ

 
 だがそれでも、当時は利害の一致が成り立っていたのかもしれない。吉川さんのやりたいようにやっていた頃は。

 しかし経営者が変わって、料理部門にまで口を出されるようになり、今までのやり方が通じなくなった今、吉川さんの性格上、ホテル側の一方的な都合などと折り合いがつけられるとはとうてい思えず、上層部との折衝についてはそもそも専門外だろう。

 根岸くんの調査報告によれば、本店は依然として盛況のようだが、ホテルのほうはすっかり閑古鳥が鳴いているとか。

 そちらのほうは大上さんが行ってくれた。

 舌の肥えているふたりに手分けして吉川さんのお店の様子を見てきてもらったのだ。

 しかし、状況は思ったとおり……かんばしくはなさそうだ。


「ホテルで出すべき料理のクオリティを守ろうとして意固地になっているのかもしれません。でも、そのために自分の虎の子まで削ってるんじゃないかと思うと……心配で」


 しかし、そうまでしてお客が来ないのでは、本店もろとも早晩、彼は破綻してしまう。

 他の店の料理が悪くなっただけとはいえ、それに吊られて吉川さんの店までがまともに風評を食らっている状態でそれを続けるのは暴挙としか言いようがない。


(手放したほうがいいんじゃないかって、声をかけてみようか……)