件の三人のテーブルに次なる料理を並べていた佐希子さんがぱたぱたとレジの前に駆けて来る。
「あの、わたし、明日もこの時間に来れそうなんですけど、あの人たちに出してるスープみたいなやつって、注文できますか?」
「ああ、オニオングラタンスープですね。だいじょうぶですよ。ご用意しておきます。ちょっと待ってね」
と、佐希子さんはレジの後ろのホルダーに差し込んであったファイルのひとつを取り出して、おそらくは予約の書き込みのため、さらさらとペンを走らせる。
「ごちそうさまでした。今日もすっごく美味しかったです」
「なにとぞ今後ともご贔屓に」
表まで見送りに出てきてくれて、そのうえこちらまで嬉しくなるような笑みを顔いっぱいに広げてみせたあと、佐希子さんはふと安心したように目元を和ませると、
「よかった――元気になってくれたみたいで」
「え? あ、ああ、あはは……現金なもんで」
外れのない味とリーズナブルな価格、それで満腹にもしてもらって、心までぽかぽかする。
惜しむらくはあのオニオングラタンスープが飲めなかったことだけれど、明日の楽しみができたと思えばおなじことだ。

