「陛下、起きて、起きて」

私は必死に陛下の服を引っ張る。けれど寝起きが悪いのか、はたまた私を困らせようとしているのかー多分前者だけどー全然起きない。

私が起きてみると、時計は九時半を指していた。急いで陛下を起こさないと、と思い上体を起こそうとするも動けない。

ようやく私は陛下に抱きしめられて寝ていることを理解した。

細いと思っていた陛下の腕は、結構力強くてやっぱり男の人だった。

近くで見る寝顔は、分かり切っていたことではあるけど超絶綺麗で、女の私が嫉妬しそうなほどだった。これは多分女装したら似合う。ナンパされること間違いなしだ。

なんて陛下の顔を見つめながら物思いに耽る私だけどそれどころじゃない。

陛下のお陰で王妃教育なんてものを免れた私は良いけど、公務のある陛下は完全に遅刻ではないか。

「陛下ー?アルフレッド様?おーい」

何度も声をかけ、腕をゆすり、陛下はようやく目を覚ましてくれた。起こし始めて十分後だ。

完璧そうに見えてこの人、朝が弱点なのかもしれない。

「おはよう、陛下」

満面の笑みでそう言うと、陛下は自らの手で自分の顔を覆った。やらかした、そんな言葉が聞こえそうなほど陛下はわかりやすく自己嫌悪に陥っている。

「ああ…」

多分これが私の挨拶に対する返事だ。この一月の間に絶対おはようと言わせてみせると心に決め、私は微笑を浮かべる。

「陛下、寝ぼけてるでしょ!なんで私は陛下の腕の中にいるんだろうねー?」

ふふん、と笑いながらそう言うと、陛下は心底冷たい顔で私を睨みつけた。

「寝つきの良いそなたはわずか数分足らずで夢の中だったな?」

「あ。うん。今日は寝坊しちゃったけど、私基本的に寝つきも寝起きも良いの」

自慢げに言う私に、陛下は一つため息。

「そのあと転がってきたそなたは私に蹴りを入れ…また反対側に転がって行き、寝台から落ちた」

「え」

「とりあえず寝台に寝かせるも同じことを繰り返し…」

「え」

「こうして私が拘束しているわけだ」

あ。なるほど。抱きしめている、というのは私の自意識過剰で、陛下の目的は拘束だったわけか。縄でぐるぐる巻きにしなかったのは陛下のやさしさなのだろう。

…私、陛下の私生活をめちゃくちゃ乱してない?

「ご、ごめんなさい!」

ああ、どうしよう。ただでさえこちらの都合で私みたいな小娘の相手をさせて、陛下には負担をかけているのに貴重な睡眠時間を奪うような真似してしまうなんて。

これはもうあれだ。ミレイと入れ替わる前に陛下が過労死してしまう。

「ごめんなさい!起こさずに寝かしてあげれば良かった。もうなんてお詫びして良いか…本当にごめんなさい」

「過ぎたことはもう良い。…それよりも、人の寝顔をニヤニヤした顔で眺めるのは趣味か?」

若干呆れた顔で言われ私はカチンと凍りついた。まさか気づかれているとは思いもしなかった。けど肌は綺麗だし、パーツは一つ一つが精巧な芸術品みたいで見事だし、ついつい見入ってしまったのだ。

陛下に気づかれていたことがあまりに恥ずかしくて、私は両手で自分の頬を覆った。

私って…こんなに恥ずかしい人だったんだ…。