少しの肌寒さを感じて目を覚ました。

寝ぼけ眼で時計を確認すれば時刻は午前5時。肌寒さを感じずとも目を覚ましていたに違いないと思いつつ上体を起こすと、寝台の脇に置かれた椅子に陛下が腰かけていた。

持て余すような長い脚は組まれ、静かにこちらを見ている。

わからない。ここは王妃の寝室なはずで、間違っても共同の寝室なんてものじゃあない。

自分の気持ちを自覚した今、陛下と同じ寝台で寝るというのはミレイへの裏切りになるような、そんな罪悪感を感じて私は陛下と同じ寝台で寝ることを拒んだ。

だから間違っても陛下がここにいるはずはないわけで。

「…幻?」

陛下の頬を触りながらそういえば陛下はわざとらしく眉をひそめる。

「ずいぶんな挨拶だな」

ふう、っと小さく息を吐き、陛下はそう言う。呆れた顔でさえも、“私”に向けられたものであるというだけで嬉しく感じる私は重症だ。

そんなことを思いながら私はムッとした口を作る。ちゃんとできているだろうか。にやけていないか不安になりつつ私は陛下をわざと睨んで見せる。

「私の知ってるアルフレッド様は女性が寝る寝室に無断で入るような男じゃないんだもん」

「…かなり大きな音がして目が覚めたんだが」

陛下が淡々と言う。それが嫌な予感しかしなくて私はゴクリと唾を飲んだ。

「何かと思ってかけつければお前はこの椅子を蹴り倒した「も、もう良いです!」」

とっさに叫んだ私はすぐに掛布を頭の上からかぶせた。自分の醜態ながら恥ずかし過ぎる。

「…ごめんなさい。煩くて…」

共同の寝室と共に、この部屋もきちんと防音加工がされている。ただしこの部屋と共同の寝室の間の壁は非常に薄い。王妃に何かあった時すぐに国王が駆けつけられるようにとかなり薄い素材でできているらしいのだ。

つまり私のしたことは陛下に筒抜けなわけで。

「…風邪を引く…。こちらで寝るのは構わないがその寝相はなんとかしろ」

ため息が聞こえたものの陛下のお説教内容はどこまでも私を心配したもので。自分の苦労はいつも二の次。それが申し訳なくも嬉しくて、口元が緩むのを感じた。

「…何とか言ったらどうだ?」

バサッと音がして掛布が引っぺがされる。呆れた表情をしているくせに目だけはどこまでも優しい。ほんと、陛下の目はその無表情を補うには十分なほどに雄弁に語ってくれる。

「陛下の目、綺麗…」

陛下の言う“何とか”がそれを指してるわけじゃないことは百も承知。それでも私はにっこり笑って言った。

「その目を見てると安心するの」

「…朝から随分とストレートに来るな」

陛下はそう言って少しだけ視線をそらす。まるでその目を隠すかのように。

頬が少しだけ色付いているように見えるのは気のせいだろうか。

「照れてる?」

「…見るな」

陛下はそう言って私の両目をその大きな手で覆った。