「あぁ…やらかした…」

「あぁ…姐さん、やらかしたね」

バイトだと思って店に来てみればまさかの“本日はお休みさせていただきます”の文字。

そういえばアリアが前のバイトの時何度も“お休みだからね”って言ってた気がする。

「ソラもいたじゃん!ていうか、少しはフォローしてよ!」

「俺は正式なバイトじゃないし!フォローって言われてもね?」

「隠密なんでしょ?話はちゃんと聴いてなくちゃ」

「姐さんだって奥さんでしょ?」

「うん。確かに私は今限定の奥さん…って何の関係が…。言い争っていても仕方ないか。どうする?戻る?」

「えー。せっかくだから遊び歩こうよ」

遊び歩く。なんて甘美な響きだろう。大好きなこの街を散策する、素晴らしいではないか。けれど思い出す。今日の私は文無しだ。

「…私、お金ない…」

これじゃ小舟に乗ることも馬車で移動することもできない。本当に“ただ歩くだけ”になってしまう。

「え。姐さん、プリンセスのくせに文無しなの?」

ずいぶんな言い草だ。そもそもプリンセスって案外使えるお金限られてない?だって国民の血税で生活させてもらってるわけでしょ?私なら好き勝手できない。

「プリンセスじゃない…。その言い方やめて。今の私は害にしかならない無力なお嬢さんだからっ!」

言ってて悲しくなるけど仕方ない。現実だ。今の所身代わりも満足にできていないのだ。

「へえ。姐さんってやっぱり変わってる。お金がないのはわかったよ?でも戻って何するの?刺繍?とてもそうは「編むしっ!お金がないからっ!暇つぶし用に用意してもらった毛糸で手袋でも編むっ!」」

どうして私は刺繍なんて似合わないと言われるのだろう。そんなに落ち着きのない顔してるのだろうか。

「どうせなら陛下のハンカチーフにピンクの糸でイニシャルでも刺繍してやるしっ!」

「ぷっ。それ使ってる主見たい!よし、帰ろう」

なぜだかソラは私を担ぎ上げる。お姫様抱っことかおんぶとかそんな可愛いもんじゃない。これは本当に担がれてる。荷物のように。

「ちょ、ソラ、降ろして」

「用がないのに長居は禁物でしょ!飛ばすよ、姐さん。つかまってー」

どこに!?

そう突っ込む間もなく、ソラは全速力で駆け出した。