朝起きたら何故か隣に陛下がいた。

陛下の体調はまだ完全じゃない。だから私は王妃の寝室で寝たはず。なのに見た感じここは共同の寝室だ。陛下はここで寝たはずだけど、私は絶対王妃の寝室で寝たのに…。

ちなみに時刻は9時半。やっぱり、陛下と寝た私はお寝坊らしい。

「陛下、陛下ー」

「…寒い。動くな…」

私が動いたことで掛布が少しずれたらしい。部屋はすでに暖かいけど、陛下の首元が掛布の外に出て寒さを感じたらしく、寒そうに私の肩に顔を埋めた。

「なんで私、ここにいるの?」

「知らん」

何でこんなに陛下との距離が近いの?

いつもより近い気がする。別にすごく寒いわけでもないのに。

「…お前、前より…」

陛下の小さな呟きが私の耳を掠める。

この人…超重要なことをサラッと呟やきやがった…っ!てか、最後聞こえなかった!なんて言ったの!

「何?柔らかい?かたい?」

「…腹まわりが増えたか…」

「な…っ!」

「…もっと引き締めないとそのうち剣も振るえなく「余計なお世話だっつーのっ!」」

私は陛下の腕から這い出た。さすがに病人相手に掛布を引っぺがすことはしなかったけど、してやれば良かったかもしれない。

「どうせ…っ!どうせ私はミレイと違って肥満でっ!豚さんで!太ってるわっ!悪かったな!」

プイッとそっぽを向くと、私は出かける準備をすべく王妃の部屋へと向かった。





「何を怒っている…」

いつも通り朝食を部屋に運ばせた陛下は、無言で朝食を味わう私に冷たい視線をよこした。

けれど今はそんな冷たい視線に動じない。できるだけたくさん噛んで食べる量が少なくなるよう努める。

「いーえ、別に?図星をつかれたことなんてちっとも怒ってないし。どうせ私はデブで肥満で、ついには剣を振れなくなるかもしれない女ですよ」

「…は?」

「おまけに夜遅い時間に2人分もご飯食べちゃう穀潰し王妃だし。残念ながら陛下に言われたら認めざるを得ない」

「…お前はもっと太っても問題ないと思うが」

陛下は私をじっと見た後でそう言った。朝のアレとは随分と違うご意見である。

「これ以上太ったらミレイのドレスが入らなくなるでしょ!」

「…お前の基準は知らないが…俺はお前を太っていると思ったことはない。朝抱き上げた感じだと50キロもないだろう?せいぜい44、5キロか」

「へ。だ、抱き上げ…?」

陛下曰く、5時頃陛下は私を起こしに行こうとした。しかし何故だか共同の寝室の床で私が寝ていたのだという。

「意図がわからないからとりあえず寝台に運んだんだが…お前が俺の服の袖を掴んで離さなかったのでそのまま横になった」

そしてそのあと陛下も寝てしまったのだという。やっぱり私は迷惑な害悪王妃らしい。怒りよりも申し訳なさが勝ってきた。

「ええ…とナゼ?何で私、共同の寝室で寝てる?」

「それは俺がききたい」

ごもっともです。全く記憶にないのですが。

「じゃあ、朝のあれは?腹まわりが増えた、とか引き締めないとそのうち剣も振るえなくなる、とか…」

「…そんなこと言った記憶はないが。寝ぼけてたか、お前の被害妄想だ」

「是非前者で!前者でお願いしますっ!」

よかった…と私は安堵の息を吐く。

けれど陛下の推測はドンピシャだ。私の体重は変わっていなければ44キロほど。

なんだかばれてしまったのが悔しい。と、いうか女性としてどうなの?異性に体重がバレるって。そりゃ夫婦とか気の置けない間柄なら良いんだろうけど。陛下はどうなの?アウト?セーフ?いや、女性として云々はもう手遅れなんだろうけど。

「そ、そうだ。じゃ、じゃあ陛下は私が肥満だとは「思っていない」」

言い切った陛下は小さく息を吐いた。面倒な女でとても申し訳ない。

「…昨日の夜より顔が丸くなったとかもない…?」

「ああ、確かに昨日の夜よりは丸いな」

「えっ!」

「冗談だ」

ふっと小さく笑って陛下は言った。その顔があまりに妖艶で綺麗で見惚れたのは秘密だ。

「…朝からごめんなさい…」

「いや。俺も寝ぼけて悪かった。多分夢を見ていたんだろうが…覚えてないな」

その夢の相手が私じゃないことを祈ります…。