「た、ただいま戻りましたぁ…」

疲れたのは言うまでもない。閉店ギリギリまでいた父は私とソラを他のカフェに連行。そのあとすごくどうでも良い話を計4時間。ソラは父と気が合うらしく、すごく楽しそうだったけど…私にとっては地獄だった。本当に。

おまけに見栄を張って夜ご飯を断ったばっかりに、空腹で死にそう。ミレイなら一食抜いても平気なんだろうけど、私は無理だ。死んでしまう。

「…遅かったな」

奥から出てきた陛下は片手にタオルを持っていた。髪は濡れてる。色っぽい、そう思ったけどそれどころじゃない。今は見惚れる1分1秒が惜しい。

「す、すみませんでした。お、お腹すいた…」

「…一応お前が何も食べずに帰ってくることも想定して軽食を作らせたが…」

「頂きます!ぜひっ!1.5人前…いや、もう2人前!」

私の勢いに陛下は若干引いていた。でもそんなの日常茶飯事だし、恥じるには既に手遅れだ。なら食に対する我が欲求を満たすのを最優先させます!

異性の前では小食を演じるのが女子力と言うのなら女子力なんていらない!

「…そんなに食べるのか」

「私は絶対に残さない!出されたものは食べる。お料理はいろんな人の苦労の結晶なの!たくさんの人が汗と涙を流して…ようやく出来上がるの!そんな偉大なものを残すなんて出来るわけがない!そして何より…残すのは食べ物に対する冒涜でしょ!」

胸を張ってそう答えた私に陛下は小さな笑みを浮かべた。バカだと思われてるんだろうけどそれが私のモットーだ。すべての生き物に感謝を込めて私は食事をいただきたい。

「世の中には食べられない人だっているんだよ!食べられる人が幸せに美味しく食べなくてどうするの!」

ピシッと陛下を指差して言い切った私に対して、陛下は笑顔を向けた。呆れても冷たくもない…たぶん心からの笑みだ。

「…そうだな…だが…太るぞ」

「ううっ…」

穏やかに笑いながら、陛下は痛いところを突いた。完璧なプロポーションをお持ちの陛下にそう言われると辛い。

確かに私は“食べても太らない”なんていう羨ましい体質ではない。

もう9時を回ってる。こんな時間に2人分食べたら翌日自己嫌悪に陥るに違いない。

「…やらずに後悔するならやって後悔する…」

決断を下した私に、陛下は苦笑いを浮かべた。