「いらっしゃいませー」

お店での決まり文句を笑顔で叫ぶ。

結果から言うと私は陛下に部屋から追い出されました。陛下なりにバイトを休まないようにって気を遣ってくれたんだろうけど、体調悪い時くらい頼ってくれれば良いのにって思ってしまう。

まあ、部屋で静かに過ごしたいって気持ちもわからないではないし、良いんだけどね。ついでにどっか宿でもとれれば良いんだけど今の私はお金がないのでそんなことできない。

今日もまた王妃の寝室で寝よっと…。

「姐さん、姐さん」

ソラに肩を揺すられ、ハッとする。ソラは口元に微笑を浮かべてコーヒーとチェリーパイを私に手渡した。

「これ、5番テーブルね?主のこと大好きなのは結構だけど、仕事中だよ?」

フッと笑って私にチェリーパイとコーヒーを押し付けたソラはお客様に呼ばれてフロアに行ってしまった。

文句を言う暇もなかった。別に陛下のことを考えてたわけじゃ…って当たってる。悔しい。なんでわかるんだ!

ソラは、私を監視するだけでそのほかは暇だからとアリアに頼んでここの手伝いをしている。世間一般で見ると整った顔をしているらしいソラは女性のお客様のハートをギュッと掴んだ。

なんでも、“これも美味しいよ”ってオススメする際にくしゃりと笑うその顔がめちゃめちゃ可愛い、らしい…。

「リクくぅーん!」

いろんなところからソラを呼ぶ声が聞こえる。ちなみにリクというのはソラの偽名。“ソラ”も偽名なんだと思うけど“影”にも色々あるのだろう。

「はーい!今行くよー」

にこやかに手を振るソラに皆キャーキャー言ってる。皆、騙されないで!そう叫びたいけど、噂が広まるのが早いのか、先ほどから女性のお客様が後を絶たない。

ていうかソラ、敬語を使え!

なんだか負けた気がして悔しい。私がナイスバディな妖艶美女ならお客様も増えるのだろうか。

「うーん…」

「こらっ!サボるんじゃない!」

「ふぁ!」

後ろから手刀が落ちてきて私はまたまたも間抜けな声をあげた。

どうせなら女性らしく“きゃっ”みたいな声を上げてみたいものだ。

「アリア…サボってないんですけど」

「愛する旦那様を思い出すのは良いけど仕事が終わってからね!」

今回は陛下のことを考えてたわけじゃないっての!もう。

「違うから!別に愛してるわけじゃないしっ!」

そう言いながら私はコーヒーとチェリーパイの載ったトレイを持ち上げた。