朝起きて時刻を確認してみるとちょうど5時をまわった頃だった。辺りはまだ薄暗いけど、これが私の日常だったと思うと少し安心する。

陛下が風邪を引いたということで、私は王妃の寝室で寝ることになった。

いつものように陛下に拘束されることもなく、一週間前までのように一人で眠る夜はなんだか長く感じた。けれど起きてみれば朝5時。この国に来てからのお寝坊な私はどこへ行ったのやら。

どうやら陛下の腕の中でなければ、私の体内時計は正常に機能するらしい。そんなことが発覚した。


そういえば、起きて疑問に思ったことがある。

私同様、国王の寝室で寝ているはずの陛下が、何故か王妃の寝台で寝ている。共同の寝室のものほどではないにしろ、それなりに大きな寝台だから別に構わないのだけど。

私の隣になぜだか陛下が寝ていた。

おそらく、起こしに来たけどまだ私が寝ていたから待っていようとしたけど寝てしまった…というところだろう。

「掛布も掛けずに…寒いのは嫌いなんでしょ?」

私は自分の掛布を陛下に譲ると、陛下の額に自分の額を合わせる。幸いなことに熱は上がってなさそうだ。

安堵の息を吐き、額を離そうと思ったその時、陛下の手が私の肩を掴んだ。

嫌な予感がして陛下の目に視線をずらすと、ゆっくりと両目が開いた。

「…人の寝込みを襲うとは…随分な趣」

そこまで言いかけて、陛下は私がどれほどの距離にいるのか気づいたらしい。

どうやって肩の位置を把握したのかは知らないけど、この体勢はちょいと辛い。

「…お、おはよう、陛下」

「…あ、ああ…」

朝から気まずい空気が流れる。陛下の手が離されたから私は体勢を元に戻して陛下の横に腰掛ける。

「まだ少し熱があるみたい…。それより…人の寝台に入ってくるのも随分な趣味って言えない?」

陛下に言い返せる事案があるというのはなかなか嬉しい。

私は口元に笑みを浮かべたまま陛下に尋ねる。陛下が気まずそうに視線をそらすあたり、今日は私の勝ちのようだ。

「…起こすつもりで来たんだが…お前が思ったより気持ちよさそうに寝ていたんでな。…悪かった」

「別に怒ってないよ?…でも起こすつもりだった、ってことは早く目が覚めたんだ。…いつもは寝坊するくせに」

「…お前は、人のこと言えるのか?」

どうやらお互い様らしい。

「陛下の腕の中でなければ、私の体内時計はちゃんと機能するみたい」

「…同じく、だ」

と、いうことは陛下は4時に起きたということだ。1時間以上、掛布なしのこんな寒い部屋で寝ていたのだろうか。

病み上がりどころかまだ病んでるのに…この男はなんなのだ。

「陛下って、自分のことには無頓着だよね」

私は陛下にかけた掛布を陛下の口元まで持ち上げた。

そしてゴソゴソと掛布の中に手を突っ込み、陛下の手を握る。想像通り、いやそれ以上にかなり冷たくなってしまっている。

「今日も公務はやめた方が良いんじゃない…?私が同じことしたら絶対お説教なのに…。もっと…自分を大事にしてよ…」

私はわざとシュンとして陛下に言った。陛下は気まずそうに視線を逸らすばっかりで何も言わない。

「…今日は…休んで欲しいな」

私は何も言わない陛下に希望を伝えた。王様と言えど、休みは必要だ。

「…お前はどうする」

「…陛下が無理しないように監視を兼ねてこの部屋で編み物でも?」

そういった私を、陛下がわざとらしく唖然として見た。

「……熱がうつったか?」

「陛下は私をなんだと思ってるの!」

陛下の額に私のデコピンが炸裂した。