早朝に叩き起こされたウィングは呻いていた。

「何なんだよお前ら…」

既に瞼は半分閉じている。

「ほら!スレプトラットっていうんだってね。」

「ねじゃねーよ、ったくこんな早朝に来やがって。」

「ごめんね。ボクらは昼夜逆転してるんだ。…ヤーンが夜行性だし。」

「ニートか。」

不機嫌そうにウィングが言った。

「早寝遅起きのウィングも結構良くないよ?」

キースの言葉は無視をして、ウィングは大欠伸をした。

「わりーけど今うちの船長病んでるから諦めろ。」

「…やっぱりかぁ…」

スレプトラットはそう言って呻く。

「話くらいはできないかな?」

「できると思うぜ。話しかけるくらいは。」

死んだようにベッドに座りっぱなしのフェニックスに食事を届けているのはウィングなので、少しくらいは話しているのだと思う。

「食わねーの、つったらうんくらいはいうぜ。」

「意思疎通が問題ないなら大丈夫だよ。」

スレプトラットはそう言って、頭の中に手を突っ込んだ。

「うえっ!?」

ぐちゅぐちゅと嫌な音がして、ウィングは反射的に目を逸らした。

「寝起きに…っ自殺なら他でしろ!」

ウィングは頭を抱えて悪態を吐く。

「自殺じゃ…いよ…さい…い…」

脳を弄っているせいか、変な雑音が入る。

スレプトラットが血まみれの手を頭から引っこ抜くと、締め出すようにして脳が再生した。

「うえぇぇ…」

「ほら、これを預かって来たんだ。」

のたうちまわっているウィングを足蹴にして、キングは差し出されたメモリボールを受け取った。

「コンピュータは持ってる?」

「ああ。」

キングは赤い手袋を外して、中指にはめられた指輪を晒す。

起動させると、メモリボールを指輪の宝石をはめる部分にかちゃりと入れた。

メモリボールは小指の爪ほどの大きさで、それが宝石のように輝き出す。


「便利なんだ、脳って。」

loadingの文字が出ている間、スレプトラットがそう言った。

「筋肉みたいに動かさないから何か埋め込んでてても痛くないし。神経もないしね。柔らかいから突っ込みやすいし。」

変なところ触るとやばいんだけど、とスレプトラットは言った。

「前海馬抉っちゃってさ。1週間分くらい記憶が吹っ飛んだの。」

「…へぇ。」

もう関わりたくない。

ウィングは心からそう願った。

「すごいねスレプトラットちゃん!君がいたら医療が大発展するね!!」

一方キースはそう言って興奮しているようだった。

「スレプトで良いよ、ちゃんは止めて。それにキースくん、ボクはたぶん医療の発展には全然貢献できないよ。」

「そう?」

「人体とは言えないだろ?実験するにも未知の生物に投薬して無事だったからって人間に試したいとは思わねーな。」

キングがそう言って、未だloadingの途絶えないコンピュータの表示を睨んだ。

「おっせーんだけど。」

「うん、ちょっと頑張って。…あ、あとちょっとじゃない。…ほら、完了した。」

終わった頃には、ものすごい量のムービーが画面に現れていた。

「…」

「1243番目から見ていって。…船長さんと一緒に。」