☆Friend&ship☆-償いの吸血鬼と罪深き種族の運命-


「フェニックス…」

フェニックスの周りには、色々な紙が散らかっていた。

四方八方に、大量の紙。

「…」

机に積み上げられた紙の束から一枚引き抜いて、フェニックスは熱心に絵を描いていた。

さすが、天才なだけあって。

それは気味が悪いほど写実的だった。

「…」

散らかった紙に描かれていたのは、ホセ、ホセ、ホセ。

狂ったように、フェニックスは絵を描いていた。

「…」

「フェニックス…」

「邪魔すんな!」

フェニックスは呻いて、そういった。

「忘れたくない…忘れたくないんだよ…!!」

思い出を、覚えている限り全ての思い出を、フェニックスは記録しようとした。

文字と絵と。

「忘れたくない…っ!」

何度でも、描いてやる。

何枚でも、描いてやる。

ホセの記憶を、留めることができるなら。


物も食べず夜も眠らず。

フェニックスは描き続けた。


でも、その絵も段々と精彩を欠いていく。


服の色、体のバランス。

次第に顔も忘れていく。

3日後には身長もおぼろげで。

1週間後にはもう、あの綺麗な髪色すら、不安げに歪んでいた。


「…うっ、うぅっ…」

一ヶ月経ち。

フェニックスは泣いていた。

「あぁぁぁ…いや、いやぁぁぁ…」

グッタリと倒れ伏し、もう形にならないホセを見つめて。

「ホセ、ホセ、ホセ…誰なの、誰なの…忘れたくないよ、君は誰なの…」

「お前の、大事な人。」

「女の子?」

「ううん、男。お前と同い年の、すっげー綺麗な。」

「…」

大事な人だったんだね。

絶望的に、フェニックスはそう泣いた。


一ヶ月と1週間後には、フェニックスはただ泣いていることしかできなかった。

「分からないんだ、ねえキング。俺は誰をこんなに愛してたの?」

「ホセっていう男の子だよ、すっごいかっこいいんだ。」

「何で別れちゃったの?その子は俺のこと嫌いになったの?」

「違うよ、その子は、ホセは、自分の居場所を見つけたんだ。」

「ねえキース、俺忘れたくないんだよ。」

「…」

「何で忘れちゃうの?ねえ、何で…」

さめざめと泣くフェニックスに、キースは混乱していた。

一ヶ月。

たった一ヶ月と1週間なのに。

何より大切だったホセの名前すら忘れてしまった。

「病気みたいなもんだよ。」

キングはキースにそう言った。

「フェニックスは人を個人として記憶することができない。毎日家族みたいに一緒にいりゃ別だけど、顔も合わせてない奴は名前すら忘れる。」

「…そんな。」

「だからアクアとも定期的に会ってるだろ?忘れるから。」

部屋に閉じこもって出てこないフェニックス。

必死で眠るまいと、何度も切りつけた身体は傷だらけで血塗れだった。

それでもふっと眠る度、その代償にまた、何かの記憶を失うのだ。

泣いて、泣いて。

忘れる度キースが教えるホセの名前を繰り返しても、段々と機械的になっていく。


何故、忘れたらいけないのか。


絶対に忘れないというその意志だけが残り、二ヶ月が過ぎた頃にフェニックスを狂わせた。

「ホセ…ホセ、ホセ、ホセ、ホセ、ホセ、ホセ…」

君は誰なの?

君は何なの?

フェニックスはうわ言のように繰り返しながら、二ヶ月前に描いた絵をじっと見つめた。

「フェニックスの大事な人だよ。」

フェニックスは、ただ泣いた。

何故泣いているかも分からず、泣いた。