「…?」

「427」

起きたそこは、プレハブ小屋のようだった。

一人用とは言わないが、それなりに手狭だ。

上体を起こすと、右手側から声がかけられた。

その声は懐かしいトラウマを呼び覚まし、ホセを否応なしに震えさせた。


そんなホセの頭をグシャッとかき混ぜ、アイスは怯えきった顔を覗き込んだ。

「食事だ、来られるか。」

ポロポロ泣きながらホセは頷いた。


立ち上がって、よろよろ歩いてきたホセを席に座らせ、その正面に座ってジッとホセを見るアイス。

でも、蒼白な顔はそれでも美しかった。

「ほら、食べろ。」

ホセは慣れない手つきでシチューを口に運んだ。

「…たどたどしいな。」

アイスはそう言って、ホセのスプーンを取り上げた。

「!」

ビクッとして 此方を上目遣いに見たホセを、アイスはクスッと笑ってからかった。

「口を開けろ。」

何故かキュッと目を閉じて口を開けたので、アイスは若干吹き出した。

「ほら…」

開いた口にシチューを流し込んでやると、ホセは嬉しそうにムグムグ口を動かした。

「どうだ。」

「美味しいです…んー…早、ストップ待ってアイスさ…」

「ほらほらほら…!」

楽しげに、アイスはそう言った。


「…う…オェッ…」

「どうした?」

「なんでも…ない…です。」

気丈に振る舞うホセに、アイスはにっこりした。

「そうか?じゃあもう入浴するぞ。ほら来い。」

「え…待って俺後でいいで」

「馬鹿を言うな。ふふ…お前が逃げないように軽く縛るだけだ。」

「なーんだ縛るだけ…で、その笑顔は…あの…アイスさん…?」

「…」

にっこり笑ったアイスに、ホセは冷たい汗をツウと流した。


「…で、アイスさん?何故俺はアイスさんに頭を洗われているのですか…?」

「なんでだろうな?」

やめてくれと言うに言えない。

ホセは黙って座っているしかなかった。

首には縄がかかっている。

その先はアイスの手首。

遊びはあるものの、逃走は無理だろう。

「…」

鏡を通してアイスを見つめると、あちらも見つめ返してくる。

「?」

「…」

くい、と首を傾げられて、ホセは少しムッとしたように顔を背けた。

「!」

「ああ、悪いな427。」

「…ごほ、ごほうあ…ひ、酷…い、息できな…」

泡を思いっきり顔につけられて、慌てるホセをクスクス笑いながらからかう。

アイスはとても愉しそうだった。

「流して欲しいか?」

激しく頷くホセに、アイスは知らないふりで無視をした。

ホセは仕方なく子猫のように両手でせっせと泡を取る。

「…ふふっ…お前…猫か…427…」

パッと赤くなったホセを、アイスはからかった。

「なんだ、やけに素直だな…427?あの金髪の前でもそうだったのか?」

「…そんなこと、ありません。俺は…人形(doll)だし。」

「へぇ。」

アイスはにっこりそう言った。

「じゃあ、あいつらから離れたのはなんでだ?お前は人形なんだろ、ドールハウスで一生可愛がって貰えば良かっただろう?」

「…違う…です…」

「本当にどうした、427。随分と可愛いことを言うな。」

「…駄目なら」

「大丈夫、ちゃんと罰してやる。」

ホセはホッとしたようにそれこそアイスに全身を預けた。

「…ちょっと、反動で。」

「なんだ、甘えたりなかったという事か?」

「…ご主人様、優しくて。」

___ご主人様…ああ、あの金髪か。

アイスは合点して、ホセに笑いかけた。

さながら、理容師のように、鏡越しに。