フェニックスの傷が完治した頃、暦の上では既に麦秋を過ぎ去り、8月も半ばの日だった。
季節感もなく船では足元に芝生が青々と茂る。
広すぎる船内の中心にそびえ立つ生命の大樹の発する生命力と魔力が心地よくフェニックスを包み込んだ。
大の字に寝そべっていたフェニックスは、その中庭と呼ぶには大きすぎるメインルームを見渡した。
前方に位置する甲板への扉、後方には船員の自室。
2つの部屋が空いてしまっている、物寂しい。
おもむろに、フェニックスはセレンの部屋に足を踏み入れた。
最初にぶち当たるのはモデルルームのような生活感のない部屋。
右にバスルームがある。
正面の扉から部屋を一周できる廊下に出ることができる。
几帳面に全ての扉を閉めきっているセレン。
鍵はフェニックスとセレンしか持っていない。
フェニックスは廊下に出てすぐ右の小さな、見落としそうな扉を開いた。
「…」
そこは2×2mの粗末な部屋。
コンクリートが剥き出しの小部屋には窓も電気もなく、悪臭がした。
「…」
でもここが、セレンが生活の中心を送った部屋だ。
コンクリートにそのまま眠る。
モデルルームは、フェニックスの目をくらますためだ。
全く役に立ってないが。
悪臭は部屋の隅に積み上げられた生ゴミのせいだ。
大抵セレンは自分を追い詰めるのが好きだから。
溜息をついて、フェニックスはその部屋を出た。
出てすぐ右に曲がり突き当たりの角を右に、左に。
隠し扉を開けて小部屋を横切り、その先の部屋にある移動魔法陣に入る。
その先にある廊下を進むと、巨大な部屋に出る。
「…」
僅かに漏れ聞こえる呼吸音。
ぐったり横になったキングに、フェニックスはそっと話しかけた。
「キング。」
「…クラウン…」
「俺、治った。行けるか?」
「…ああ…大丈夫だよ…っ」
スッと起き上がってキングはそう言った。
「アクアちゃん助けに行こっか?」
フェニックスは黙って応えた。


