『助けて下さいN様!!』
通信が入ったのは7/7はもう終わりかけの、宵のことだった。
「どうした、ブライド。」
悲鳴のような叫び。
私は微笑んでそれに応じる。
またジュエルが何かやらかしたか。
『L君が居ません!!』
ジュエルの監督責任はブライドにあるため隠し立てしても良さそうなものだが、ブライドは犬のように忠実なため餌をやらなくても従う。
…いやもう犬ですらなくないか?
「そう慌てるな、ジュエルはお前の恋人でもあるまいし。」
『恋人でなくても主人です!!ホストです!!ユーザーです!!!』
「分かった分かったそう泣くな。」
本格的に犬だ。
主人に置いてけぼり食らった犬だ。
『ああもう私はどうやって生きていけばいいのですかL君!!』
盲信じゃねーか。
犬の上に狂信者か君は。
結構終わっているブライドをなだめながら、私は目を閉じ溜息をつく。
君にとって、L君とはなんなんだろうな、ブライド?
恩人…好敵手…親友…保護対象…
全て正しい気がしてそうでない。
そうだ…偶像、偶像崇拝のようだ。
ジュエルを崇め奉る。
「ブライド。落ち着きなさい。」
ただでさえボロ雑巾のようなのに、ボロボロ泣くせいでさらにみずぼらしくなっている。
パン恵まれるぞそのうち。
『あっ、あ…だっ、て、私は、もう、なんか…死んでしまいたい…』
「やめなさい。」
すごく追い詰められているようだ。
死にたいとか言ってる。
「落ち着きなさい、大丈夫だから。」
ちっとも大丈夫じゃなさそうにブライドは頷くと、そのまま通信を切った。
「…さて。」
質素とは言いがたい研究室を見渡し、先ほど訪ねてきた乱暴な青年に声をかける。
「待たせたな、ここに座りなさい。」
「ああ。」
態度も身長もでかいが、見た目はゼロと同じくひょろっとしている。
しかし着ている看守服のせいか、随分恐ろしく見えるのだから不思議だ。
「ブライドが欲しい。」
突然、開口一番彼はそう言った。
「ブライド?」
「427をやる。代わりにブライドをよこせ。」
「やると言われてもね。」
私は余裕綽々に言った。
「そもそも彼は君のものじゃないだろう?」
「俺のマインドコントロールは強力だ。俺が俺のものだと言えばそれがあいつのにとってたった一つの真実。」
「そうだろうね。」
私は微笑みながら言った。
彼はスッと目を細める。
「ブライドを寄越せ。」
「彼に聞きなさい。」
「お前から言ってくれ。ブライドは主人に盲従するんだから。」
酷薄な瞳。
どこかブライドに似かよった凛とした雰囲気。
「なあ、レビィ。」
憂げなその視線の先には、まだ改造を施される前のブライドが満面の笑みで賞状を抱きしめていた。
「…責任、取れよ。」
彼は唇を噛む、声が震えて俯いた。
「罪を、償え…」
「…」
「っ…ブライドを…あんな…っ…傀儡にしやがって…っ…」
「…」
その頃の私なら笑って無視しただろう。
でも。
「もちろんだ。」
償うよ、ブロウ。
ブライドにしたことも。
君にしたことも。
ジュエル君にしたことも。
「償う。」
この命を削って、償うさ。
私を変えてくれた幼い少年に、頭の中で微笑みかける。
ありがとう、と。


