「おはようございます…」
「あっそ。」
恭しく跪いた召使いに、私は無造作に針を投げた。
今は機嫌が悪い。
「失せろ。殺すぞ。」
体に溢れる闇のオーラ。
それは自身の体の一部のように揺らぎさざめく。
これは魔王の一族の特殊能力である“威圧”と“オーラ”。
“魅了”と“幻覚”も使えるには使えるが、特に魅了は苦手だ。
いやできない訳ではないが、やった後が。
親愛なる愛おしき我が同胞のジュエルのような美しい見た目だったらよかったのだろうが。
というかあいつは天然で魅了のホルモン振りまくからな。
「あいっ…は、はい失礼いたしましたっ!!」
慌てて走って逃げ出す召使いに侮蔑の視線を投げかけながら、私は王座から立ち上がり歩き出す。
「…」
数個の廊下を渡り歩いて数百メートル。
先の部屋に、ジュエルの自室があった。
いや、元自室と言うべきか。
「ジュエル…」
あいつが…あの子が此処に居た僅か数ヶ月。
私の人生はここ2000年の中で最も美しかった。
いや、5000年の寿命の中で最も美しい数ヶ月になるだろう。
「会いたい、ジュエル…」
あんなに綺麗なジュエルに、もう一度だけ会いたい。
この薄汚い煌びやかな城は、お前の居た部屋だけで十分だ。
汚い、汚い何故?
きっと彼を見たせいだ。
私はそう思った。
彼が美しすぎたから、私は他のものにもはや美を見出せない。
___大好き、魔王様…
あどけない、純朴な瞳。
稀に見る、透明な願い。
「…ジュエル。」
きっと君は世界で一番美しい。
だから私は、君に魅せられた。
君だけを求める。
この灰色の城に囚われて、出られないのだ。
「ジュエル」
もう一度だけ、助けて…


