全く面倒クセェ。

何故俺は仕事とやらに就いたんだろう?

ああ本当に腹がたつ。

不自由だ、不自由すぎて頭がおかしくなりそう。


苛立ちまぎれにその辺の壁を蹴ろうにも、そこには所狭しと書かれた数百年後の世界遺産がある。

困ったことだ。

本当に、世界は生きにくい。

「どうしたの?ふふ、随分機嫌が悪そうね?」

彼女の派手な色彩はまるで俺の疲労を無視して襲いかかってくる。

舌打ちしたが、向こうはクスリと微笑んだだけだった。

「ゼロとはまた違った不健康ね。真っ青。」

「放っておけ、クッソ。」

耐えられず、側の壁を殴る。

拳の方に鈍い痛みが走る。

「大丈夫?」

「な訳あるか、折れた。治せ。」

拳を突き出すと、相手は呆れたようにやれやれと首を振る。

「ゼロとは正反対ね。暴力的で自分勝手。」

「ほっとけ。」

イライラする、ああイライラする。

組織に属したくなんてなかった。

あの頃の俺はどうかしてたのだろうか?

抜けたい、抜けたい抜けたい独りになりたい。

“職場”も“仲間”も要らない。

“家族”というサークルすら俺を縛るなら必要ない。


俺には、天涯孤独がよく似合うんだ。


「寂しい人。」

「憐れむな。お前の愛するゼロさんだってそうだろうが。」

「ゼロには私というパートナーがいるわ。」

「それでいいなら俺だって427がいるが?」

「あんな可愛いリト君に手を出すの?うわぁ…鬼畜ってあなたみたいな人を言うのね。」

「女のクセにあいつに興味のないお前が異常だ。」

ムッとすると、向こうはクスリと微笑みいきなり抱きついて来た。

「はっ、噂のアメリカンスタイルか?」

馬鹿にして押し退けようとすると、向こうはまた笑う。

「トリヒキ、しましょ?」

私の心が担保よ、相手はそう悪戯っ子のように笑った。

「何の?」

うんざりしたように答える。

「悪いが女には困ってねーぞ。」

「違うわ。」

「427?」

「残念。」

「チッ。」

蹴りとばすようにして相手を突き飛ばす。

ブライドなら優しく諭すんだろうが、生憎俺は紳士じゃない。

「ゼロよ。」

「…」

尻餅をついたままで、相手はこちらを見上げた。

挑戦的な瞳。

その目に、繋ぎ止められた。

「ねえ、看守さん?」


ゼロが、欲しいでしょ?


「…」

ニィ、と俺は口角を吊り上げた。


「勿論。」



俺を縛るなら、家族なんて要らない。

だけど俺が“縛る”なら。


「厄介なロボット一匹、養える。」


檻の中で。