結局ゴミ袋はなんとか押しのけ、ゼロは乗船した。
「…本当に、いつ見ても異様です。」
室内らしからぬ広さ、密室らしからぬ開放感。
最高に美しい。
「容姿端麗、成績優秀、知勇兼備、文武両道、有史無双、天与二物…人柄は温厚柔和で主君に忠実、しかし倫理を重んじ悪を許さない類稀なる正義感の持ち主…リーダーとしても部下としても友人としても恋人としても師としても弟子としても群を抜いて優秀で完璧な少年…ですか。」
彼の推薦文に書かれたことを思い出す、本当に完璧な人間なのだ、彼は。
今その彼が目の前にいることが震えるほど嬉しい、幸せだ。
例えるならそう、世界一有名なスターが隣に引っ越して来たとか。
いっそ、突然兄弟になったくらいの。
「ゼロさん、どうしたんです。」
足を止めたゼロに、無表情にホセが言う。
「すみません、少し。」
君のことを考えていて。
不健康極まりない顔色、ホセは一瞬心配そうに穿ったような視線でゼロを見る。
「?」
首を傾げて微笑むゼロに、ホセは無表情のままゆっくり前を向いた。
「ここでいかがでしょうか。」
「部屋をくれるんですか!!?」
「…うっ。」
食い気味に食いつくと、ホセはぽろっと泣いた。
「すみませんごめんなさい無表情で泣かないで憐れまないで。」
ゼロは慌てて慰めた。
「L君、荷物を整理したらあの芝生にいていいですか。」
サクッ、サクッと芝生を踏む小気味好い音が好き。
ゼロは与えられた自室に荷物を置いて、芝生に三角に座って目を閉じる。
「ゼロさん。」
ホセはゼロを覗き込んだ。
「お疲れの所申し訳ありません。お話を聞きたいんです。」
ゼロは片目を開く。
微笑んで、構いませんと呟いた。