「何のつもりだよ、馬鹿ホセ!」
刹那、アクアが吹き飛んで一気にホセから引き離される。
「…邪魔を…するな…」
すんでのところで入った邪魔にホセは舌打った。
アクアは震えながらぱったりと倒れ込み、荒い息を吐いた。
「ふざけるなよ…アクアは仲間なんだろうが!!!」
「…」
「なんで、何でアクアを、アクアを吹き飛ばした!!」
掴みかかったホセの両腕を止めながら、ウィングはニヒルに微笑む。
指先が食い込んで、ギリギリと音を立てる。
「ホセ、いい加減にしな。」
「邪魔をするな!」
「ホセ」
「離せ!離せよ!」
「何恐がってるんだよ、馬鹿。」
「お前がこの手を放してくれればそれでいいんだよ!!」
激しくホセは暴れるがウィングはそれでも苦しげな顔で笑った。
「全然力入ってねーじゃん。」
「ふざけるなぁっ!!」
「ちょっと落ち着けよ、な?冷静になれって…」
「落ち着いていられるか!離せ!あともう少しなのに、あと、あともう少しでアクアの願いが叶うのに…!」
「何の願いだよバーカ。」
「ふざけるな…!」
ホセは抵抗をやめてキッとウィングを睨みつける。
「お前に…お前に何がわかるって言うんだよ!!!!」
「…」
「アクアが最初に話した言葉を知ってるか?初めて歩いた日を知ってるか?何で笑うか知ってるか?友達がどれだけいたか知ってるのか?どんな人生を送っていたか知ってるのか?なぁ、なぁ!!」
「…」
「アクアが七夕に何を願うか知ってるか?誕生日に何を願うか知ってるか?ほしいものは何かわかるのか?それをどれだけアクアが欲したかわかってるのかよ!!!」
「…」
「分からないだろ、知らないだろうが…!知ったような口きくな、アクアを知ってる、俺はアクアの、いちばん大きな願いを知ってるんだ…」
「…」
「分かるかよ…アクアの、願い続けてきた大切な願いを…あたりまえなことだよ…!」
「…」
「分かるか!?俺が奪ったものが!!両親の顔すら覚えてない!父親の頼もしさも、母親の優しさも、いたかもしれない兄弟も、未来も、自由も、夢すら…!!!」
「ホセ」
「俺が!俺が奪ったんだよ!!!壊したんだよ!!分かるのか!?分からないくせに…!!知らないくせに!!」
「ホセ!!」
ウィングは悲し気に微笑んでホセに笑いかけた。
「ほんっと一方的やなぁ、お前は…」
なだめるように優しく、慎重にウィングは話した。
「なぁホセ、覚えてないの?アクアをどうやって守ろうとしたか…苦しんで苦しんで、何とか、それでも人並みにアクアを幸せにしたろ?な、ホセ…」
「アクアに聞いてみろよ!!どれだけつらかったか!!食事もほんの僅か、買って欲しい物だってほとんど買ってもらえずに!アクアは…!」
「ホセ、お前は?両親はいたけど愛してくれた?お金はあったけどちゃんとワガママ言えた?未来はあったけど幸せだった?これ以上ないほど?」
「幸せだった!みんな俺のことを愛してくれて!俺は!!」
「だとしたら!ホセは大事なとこが違ってる。なぁ、犬小屋で、凍えるように寒い毎日を過ごさせられて、毎日毎日殴られて蹴られて、家事全部押し付けられて、鞭打たれて食事もなくてさ。水さえもらえない毎日が幸せだったの?それを世間じゃ地獄って言うんだよこの馬鹿。」
ホセはまた身をよじって拘束から逃れようとしたが無駄だとあきらめたらしくウィングをを睨んだ。
「そうやってまた見捨てられようとしてんだろ?そうやってまた嫌われようとしてるんだろ。死んじゃえって言われたいんだろ?嫌いって言われたいんだろ?お前は優しいから、誰も傷つけたくないからさ。」
「黙れ!!違う!!俺の邪魔をするな、アクアの幸せをこれ以上奪うな!!」
「何がアクアだよ、お前は幸せが何かも知らないくせに。」
「知ってる俺は」
「知ってたら俺のこと殺してちょ(はぁと)なんて言わないだろうが!!」
「言ってねーよアホ!!」
ホセは怒って足のリーチを生かしてウィングを蹴り上げる。
うまくかわしてウィングはホセにのしかかった。
「お前は何も知らない。お前に分かるの?わかんないよな、ホセには。優しくて勇気があって力もあって頭もいいホセには。誰かの後ろに立って生きる辛さがわかる?一番大切な人が自分のためだけに自分の目の前で傷ついていく辛さがわかる?」
ホセは歯を食いしばってウィングを睨みつける。
「一番大切な人が、恩だけ売っといて恩返しの間もなくさあさあ早く自分を殺して楽になれなんて馬鹿なこと言ってくる辛さが分かる?一番大事な人がボロボロに傷ついて苦しんで、その体を踏み越えろって本人から言われる辛さが分かるのかよ!!」
「俺が一番になれるわけがない!俺は吸血鬼だろう!!俺みたいな…俺みたいに穢れた奴が…そんな奴がアクアの汚点になるから!アクアが苦しむんだよわからずや!!!」
ホセは怒りに身を任せ体を反転させウィングを押し倒す。
そして奥歯を強く噛みしめながら何度もウィングを殴る。
「俺がそばにいるだけでアクアが…アクアがどんな目で見られるかなんてわかるわけないだろ!保育士にいじめられ、友達に仲間外れにされて世間から白い目で見られて…!どれだけっ!どれだけつらかったことか!!」
「…いったいんだけど。」
「俺は償わなきゃいけない、アクアから全てを奪った罪を、アクアの血縁者であるその罪を、吸血鬼に生まれてきたという罪を!償わなきゃ、苦しまなきゃ俺は!」
「…ごほっ」
「アクアに…アクアに許しを乞うことすら許されない!」
その叫びはあまりにも悲痛で、痛みに満ちていた。
ウィングはホセの拳を受け止め血だらけの顔で微笑む。
「泣くなよ、大丈夫だから。」
大粒の涙がホセの真紅の瞳から零れ落ちる。
「大丈夫、ここがお前の居場所だっての。」
「…」
「大丈夫、大丈夫。」
「…」
「知ってたんだろ?許してくれって言えば、簡単に許してもらえることくらい。」
でも完璧なホセは、自分を罰しなきゃ気が済まないから。
理由を付けて、こじつけて自分を追いつめて苦しめて。
許しを乞う許しを得るために苦しんだ。
「もういいから、な?」
背水の陣にもほどがある。
居場所がなくなれば、頑張れると思ったんだろうか。
「お前はここにいるの。ずっと、ずっと、ここにいるの。」
パタン、と崩れ落ちてきたホセの背中を優しくなでてやりながら、ウィングは呟いた。
「風邪引き馬鹿。」


