急ぎ家に戻ってみれば、鍋から美味しそうな匂い。
そしてウィングがセレンに押し倒されていた。
「いや一体どういう状況…」
「ヴィスを探してくるから。」
セレンの一方的な宣言。
セレンは足枷を引きずりながら出て行った。
「あーあ。さてウィグくん。ヴィスに何言ったの?」
俺がいなかったのが悪かったんだけどさ、ミューズが言った。
「いや…別に…何が原因かも分かんね。」
ウィングはそう言ったが、キースは苦笑いした。
「あのね…」
キースは、先に戻っていたウィングとヴィセーブを見つける。
ヴィセーブは既に起きていて、ポンチョのようなものを着ていた。
「あ、先輩。」
「ヴィス、平気か。」
「すみません俺…取り乱しちゃって。」
「大丈夫なのか。」
ヴィセーブは黙って頷く。
ベッドに腰掛けたヴィセーブの両足がゆらゆら揺れていて、どこか子供っぽかった。
「怪我がないなら良かった。」
セレンはそう言って、ヘタリと垂れた耳を弄った。
凶暴なさっきとは打って変わって、子犬のような雰囲気だった。
「ごめんなさい、先輩。」
俺悔しかったんだ。
先輩はすっごく優しくて、強くて、頭良くて。
なのにあんな看板1つに行動縛られなきゃいけなくて、悔しかったんだ。
耳をいじくりまわされながらヴィセーブは言った。
「俺、先輩みたいになりたいよ…」
ヴィセーブは、しくしく泣き出した。
「…ま、ヴィスは元来泣き虫だったしな。」
いつものことだよ、とミューズが言った。
「おいヴィセーブ、これ作るの手伝えよ。」
時間は既にお昼時。
軽食でも作ろうかとウィングが腕を捲ってそう言った。
「ん?」
「こーれ。スープ。そっちの野菜刻めー。」
「え…俺、料理できない…」
「はぁ!?料理って言わねーよこの程度!!んじゃ野菜でも洗ってろ!!」
「あの…洗うってどうやれば…」
「はぁ!?」
セレンがぐったりしている隙に多分全員から忘れ去られているスキルを使おうとするウィング。
実はシェフとして船に乗ったのだ。
結局セレンが作りまくっているが。
「じゃあサンドイッチくらいなら作れるだろ。それをこっちに挟むんだよ。んで串で止める。」
「あ…多分そのくらいなら…」
ヴィセーブは自信なさげにそう言って、ウィングからプラスチック製の串を受け取った。
「…あー、嫌な予感しかしねぇ…」
「ってかお前な、キースとかに手伝わせろよ。」
「僕悪質な不良に会っちゃったんだ。セレンはあーだし治療に行ってたんだよ…」
なるほど、フェニックスが言った。
「おいなんでこうなるんだよ!!」
「ご、ごめんなさい…俺、掃除も苦手で…」
「じゃあ何が出来るんだよ!!」
既に家事は殆ど網羅してしまっていた。
意外にしっかりしているウィングは青筋を立てて怒っている。
「あのなぁ、お前ちょっとくらいやれっての!!」
「だって俺」
「だってばっか言ってんじゃねーっての!!」
元来泣き虫のヴィセーブは状況も加わり余計に弱気になっていた。
もうすでに両目は真っ赤だ。
「ごめんなさい、ごめんなさい…ごめんなさい…ヒック…うっ、うっ…」
ついに泣き出した。
「ふざけんなてめ、余計なとこばっかセレンににやがって!!」
「…っ」
「似るんなら能力まで似とけ!!詐欺かお前は!!」
ここで弁解をするならば、別にウィングには何の意図もなかった。
いい意味でも、悪い意味でも。
「…!ふざけるな!!」
黙れ!!
俺は先輩じゃないんだ!!
「あんなこと言ったら誰だって怒るよ、ウィング。」
キースがたしなめるようにそう言った。
「僕でも怒っちゃうよ。」
いや絶対怒らねーだろと全員が内心思ったが(ミューズもキースがどんな奴かくらい初日で分かった)取り敢えずスルーした。
「ヴィセーブはほっといて良いのかよ?」
「大丈夫だよ。」
ロスが家出ヴィスを見つけられなかったことなんてないんだからさ。
「…決め台詞言ったところ悪いだけど、何回中?」
「78回。」
「…どんだけ家出してんの…」


